グランギニョルの舞台裏

グランギニョルの舞台裏

グランギニョルの住人達は、新たな演者を待っている。

▼ ルネコの備忘録#5_ウーミン・ヴィンス編 ▼

 最近は、何となく気分が沈みがちだ。

 

 この屋敷について考えてみればみるほど、謎は深まるばかり。きっとそれは、俺の様な一介の人間風情が解明できる事ではないのだろう。天上に浮かぶ月を眺めながら物思いに耽っていると、何やら騒がしい声が廊下から聞こえてきた。

ウーミン

 ”やーだー、いま遊ぶのー!”駄々をこねる少女の様な声色に、もしかしたらこの屋敷で初めて俺以外の人間に会えるかも、なんて淡い期待を描いてそっと扉を開けてみた。その隙間から廊下の様子を伺った瞬間、俺の願望は打ち砕かれた。

 人が持つ筈のない、くすんだ白い翼。それを大きく背面に広げた少女が、隣に立つ誰かの腕を引っ張っている光景が目に映る。”1時間寝たら遊んでくれるってゆったもん、ぜったいゆったー!”サラサラと流れる金髪をぶんぶん揺らしながら地団駄を踏む少女、あれは天使なのだろうか?にしては薄汚れているが。

ヴィンス

 一方隣の怪物はうんざりした様子で”…勘弁してよ”と嘆息していた。どういうトリックなのか、暗い灰色の花が彼の肩や手首にいくつか咲いた。

 そこで、ふと俺の視線に感付いた少女が目を輝かせながら俺を指差して”あそぼー!”と声を張り上げた。突然の出来事に戸惑い、対象が違うかもしれないが助けを求めるように花の彼を見つめると”……うん、君に任せた”まさかの丸投げかよ、と愕然とする暇もなく踵を返し立ち去ろうとする彼。

 しかし少女がそれを許さず、彼の腕を今まで以上にがっちりと掴み”うー良いこと思いついた!あのね、3人であそぶの!”__こうして、予期せぬ形で怪物2体を部屋に招き入れる事となった。

 

 …白状しよう、楽しかった。ボロボロの翼の少女__堕天使と後に知ったが__彼女は他の事に興味が向いてさえいれば害意は持たないのだろうし、花の彼は元々捕食にあまり興味がなさそうな印象だ。俺のリクエストに応えて、彼は手のひらからシロツメクサを咲かせてくれた。それで3つ分の花冠を作ってやると、少女は大層喜んでくれた。

 お礼にと渡された羽根ペンは、彼女の抜け落ちた翼の一部で作られたものらしく、お守り代わりになるとかならないとか。盲目の怪物から貰った万年筆があるので、羽根ペンは使わずキャビネットに飾っている。それに並べて置いてある花冠は、生花なのにずっと瑞々しさを失わない。きっと花の彼の魔法の力なのだろう。

 この2つの思い出の品を眺めれば、陰鬱とした気分も少しは紛らわせる事が出来るようになった。俺は徐々に、この屋敷での生き方を学びつつあるのかもしれない。

To be continue...

__怪物から縁のある品を貰う事は、複数の意味を持ちます。

時にはそれが身を守ってくれる事もあり、また物の稀少度や需要によっては、他の怪物との物々交換や交渉にも使用できます。

次話「#6 ギンハ・シャルロット編」

前話「#4 テオ・マリーシュカ編」

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